くらしの真ん中に、台所。
お母さまが建てられたお家に引っ越すのを契機に、キッチンのリフォームをしたいという女性のお客さまから相談を受けたのが、昨年の夏。お忙しいお仕事の間を縫っての打合せの何度目かの席で、「レイアウトも収納も、プロのセンスでいろいろ教えてもらいたい」とおっしゃったお客さまに、「大切なのは、ご自身がどんなふうにキッチンに立ちたいか、ではないでしょうか」とお伝えしました。そこから一気にイメージが膨らんでいくのがわかりました。
「家にいる時間の大半を過ごす台所を、自分の元気をチャージする場所にしたい。くらしの真ん中に台所があるような、そんな場所にしたい」。ダイニングよりもキッチンスペースを重視し、伸び伸びと家事ができる空間をめざしました。
脱衣場とキッチンの間の壁をなくすことで、「洗濯」と「料理」の間の動線を短縮し、食器棚を脱衣場側に「埋め込む」ことによってキッチンスペースの凹凸を解消しました。多目的に使えるバックヤードを確保し、「収納」にもたのしみが生まれるように工夫しました。
図面の上では、狭そうに見えるかもしれませんが、それぞれの空間に明確な役割をもたせることで、部屋のどこにいても窮屈に感じず、むしろゆったりしていることがわかっていただけるでしょう。
キッチンの天井を敢えて下げ、ダイニングと分離させることで、「くらしの真ん中に、台所」のイメージが完成しました。壁の和紙クロスに反射する光のあたたかみと下げ天井とのコントラストは、見る時間によっていろんな味わいがあります。床や棚に取り入れた天然無垢材の色合い、質感が、お客さまの「自分らしい暮らし」のイメージにぴったり合っていることも、大切なポイントだと思います。
お客さまからの声
最初、「プロならではの提案をもらって、リフォームを成功させたい」と思っていましたが、「大切なのは、あなたがどう暮らしたいか、です」というひと言が、まさに「目からウロコ」でした。リフォーム成功の秘訣は、「その空間を使った自分の暮らし方」を、より丁寧に、言葉にして伝えることだと思います。完成した台所に立ってみると、「同じ面積のはずなのに、どうしてあんな窮屈だったんだろう」と不思議なかんじがします。そして、「設計って、そういうことなのかな」と、少しわかった気がします。お家はただの「箱もの」ではありません。「暮らし方」を、もっと言えば「生き方」を左右する、とても大切な空間。既製品でない、わたし流の暮らしを創っていくために、設計士さんは強い味方になってくれると思います。
そして、天然無垢材の床や棚に反射する光のあたたかみは、四季折々に、朝と夕方に、それぞれ違う顔を見せてくれるでしょう。みんなでつくった台所の魅力を五感で味わいながら、たのしく家事をしていこうと思っています。
建築概要
建築所在地:大阪府寝屋川市
建物用途:一戸建木造住宅(キッチンリフォーム)
構造規模:木造2階建て